貴方の死を望みます
どうかしてる、と思う。
「……どうかしてるぜ、まじで」
呟いてみても、何も変わらない。隣に座っている男は相変わらず庭を眺めている。
「ああ、見てください独眼竜。もう蜻蛉が飛び始めている」
見ればなるほど、赤蜻蛉が空を舞っている。陽射しこそ夏のそれだが、もう秋が
近付いているのだろう。
最近、明智はこう見えて風雅なところがあることを知った。それは、政宗にとっ
て大変に都合が悪い事実だった。何しろ共にいる時間を不快と思わないのだ。お
かげで一部の家臣からは奇異の目で見られたりもする。
(まあ、相手はこいつだしな)
明智は一度戦場に出れば、死神となる男だ。ただ純粋にその大鎌で命を刈り取る
ことを楽しんで、命のやり取りの中の、刹那の快楽を追い求める凶刃と化す。恐
れられて当然の人物なのだ。
それなのに政宗は、そう思うことが出来ないでいる。戦場で会ったこともある、
そもそもそれが馴れ初めなのだが、それでもこうして居ることに安らぎを覚えて
しまう。
ふと気付くと、明智はいつの間にか庭に降りていた。植え込みの側でしゃがみ込
んでいるものだから一体何をしているかと思えば、彼は掌に何かを捕らえて戻っ
てきた。
無言のままに開かれたその手の中には、
「可哀相に、蟻に喰われていたのですよ」
片羽の赤蜻蛉がもがいていた。
「おい、――」
それをどうする気なのかと問いただす前に、明智がうっとりと言った。
「貴方に似ているとは思いませんか」
「は?」
「ですからこの、片羽の蜻蛉がです。貴方にとても善く似ている」
何処が、と、政宗は明智を睨みつけた。それを意に介せずに明智は続ける。
「飛ぶための翼を喪って、それでも飛びたいと望むその折れない心を、どうやっ
て折ってやろうかと考えると堪らなく愉しいのですよ」
「訳わかんねえ」
政宗の言葉を気にすることなく、明智は蜻蛉を蟻の行列の上に落とし、
「政宗公。貴方もいずれ、こうなる運命だ」
振り返ったその顔は、まるで幽鬼のようだった。これが、この男――明智光秀の
本質。
だというのに、離れられない。
(やばいだろ、)
自分に言い聞かせてみても所詮それは上辺だけであって、
「You'er mad,And perhaps……me too.」
「異国語はわかりかねますね」
「あんたが死んでくれればいいって言ったのさ」
嗚呼、今が早春なら、マツユキソウでも贈ってやりたい。
こんな感じにお送りしていきます。
それにしても萌えない…・・・。
マツユキソウはスノードロップの和名で、人に送った場合の花言葉は
「貴方の死を望みます」
だそうです。