恍惚心中
するする。
細く長い髪が音を立てて、指の間を通り抜けていく。其れを見た政宗は、不快感
を露わにした。
白が零れ落ちる様は、掴み所のないこの髪の持ち主自身を象徴しているようで。
(一層、握り締めて仕舞おうか)
そう思って、──止めた。結局のところ政宗は、光秀のそういった気質こそを好
ましく思っているのかも知れない。
代わりに溜め息を一ツ吐いた。耳聡く聞きつけた光秀が、緩寛と振り返る。
「溜め息など吐かれては、幸福が逃げていきますよ」
ねえ、政宗公。
くつくつと咽を鳴らして嗤う男の貌を隠す白い髪を一房掬うと、
するする、
其れは矢張り、呆気なく指の隙間から溢れていった。
まるで彼が云う幸福だ。
「だが、光秀」
政宗の呼びかけに、光秀は軽薄な視線と微笑みで応じた。
「アンタは逃げないだろう?」
「おや、光栄なことですね」
「勘違いすんな、俺は手前の幸福なんざ疾うの昔に諦めてんだぜ。アンタは体の
イイ暇潰し。OK?」
「ふふ、心配せずとも判っていますよ。大体、そうでなくては面白くも何ともな
い!」
大仰に肯定する光秀に、政宗はにやりと口許を眇めて見せた。
傷の舐め合いなど互いに望んではいないし、だから馴れあう気も更々無い。言っ
てみればこれは急度、傷を抉り痛みを思い出す為の協定なのだ。
するする、さらり
てのひらの中で揺れた白に空々しく唇を落として、
「幸福なんかどうだっていい。アンタは俺から逃げないし、逃がす気だって無ェ
からな」
長い髪は、今度は逃げることなく、蛇のように指に絡み付いた。
「偶然ですね」
蛇は言う。
「私も同じ様に思っていたのですよ」
するり、
音を立てて、二対の捕食者の眸がかち合った。
ダテアケダテ。
この二人に受けとか攻めとかそういうボーダーラインは要らないような
気がしてる。