雪に溶ける鴉
ふわり、白が宙に舞う。
周囲は今や、圧倒的な白に支配されていた。
「光秀」
ふわり。嗚呼、白が。
「はい、何でしょう」
振り返ったその人は、次第に景色に溶けて行くように見えた。政宗は手を伸ばし
かけて、結局止めた。
「Sorry、何でもねェ……否」
吐き出す吐息すら白い。気が狂いそうだと政宗は思う。
「アンタ、無邪気だな」
「無邪気……そう見えますか。私は」
政宗の視線の先で、透けるような肌を微かに赤く染めて尚、光秀は庭から上がろ
うとしない。彼は何をするでもなく、ただふらりふらりと覚束ぬ足取りで、うず
高く積もった雪の上を歩いているのだった。
「餓鬼ァ新雪に足跡付けたがるモンさ。俺にゃ、アンタも同じに見えるよ。……
楽しいかい?」
云いながら政宗は煙草に火を点けようとした。だが考えてみれば、煙も白い物で
ある。これ以上気が滅入るのも御免だった。
「楽しいなど」
さくり、
光秀が歩く毎に、踏み締められて雪が鳴る。
「生憎と、童のように純粋な心など持ち合わせてはおりません」
彼は吟ずるかの如く嘯いた。
「汚したいのです。否、壊したいと申し上げた方が正しいでしょうか」
近付く足音、
「……判んねェな」
呟く政宗の頬に、氷の指が食い込む。
「貴方は美しい。醜くともね」
嗚呼──白い。
ぴりぴりとした痛みを感じながらも、政宗はどこか夢見心地でいた。
光秀が囁く。
「こうは思いませんか。……汚れているものがなければ、そも美しいと思うことも
無いと」
現に立ち帰ろうと。
政宗は白い手に、更に爪を立てた。
「壊してェかよ。俺を」
始めに光秀が付けた足跡は、新たに降った雪によって疾うに消されていた。
政光と言い張る。
というか新年一発目の更新がこんな殺伐としたアレで善いものかと思わんでも
ないが、せっかく書いたので上げますね(ザッツ貧乏性)